原文：

　　春過ぎて夏來たるらし白（しろ）たへの衣（ころも）ほしたり天（あま）の香具山（かぐやま）

　　――持統(tǒng)天皇（ぢとうてんのう） 萬(wàn)葉集。巻一。二八

　　現(xiàn)代口語(yǔ)譯文：

　　春が過ぎて夏がやってくるらしい。白い布の著物が干してある、その天の香具山には。

　　原文：

　　熟田津（にぎたづ）に船乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今はこぎ出でな――額田王（ぬかたのおおきみ） 萬(wàn)葉集。巻一。八

　　現(xiàn)代口語(yǔ)譯文：

　　熟田津で、船に乗って出発しようとして満月になるのろ待っていると、（いよいよ満月になって）潮も満ち、ちょうど船出に都合よくなった。さあ、漕ぎ出ようよ。

　　原文：

　　東（ひむがし）の野にかぎろひの立つ見えてかへりみすれば月かたぶきぬ。

　　――柿本人麻呂（かきのもとひとまろ） 萬(wàn)葉集。巻一。四八

　　現(xiàn)代口語(yǔ)譯文：

　　東の野に明け方の光がちらちらするのを見え、ふりかえって（西の方を）見ると、月はもう傾いてしまっている。

　　原文：

　　人もなき空（むな）しき家は草枕（くさまくら）旅にまさりて苦しかりけり。

　　――大伴旅人（おおともたびびと） 萬(wàn)葉集。巻三。四五一

　　現(xiàn)代口語(yǔ)譯文：

　　人もいない、がらんとした家というものは、旅の（ときのさびしい）苦しさにもまして、さびしくつらいものだなあ。

　　原文：

　　うらうらに照れる春日（はるひ）に雲(yún)雀（ひばり）あがり情（こころ）悲しも獨(dú)りしおもへば。

　　――大伴家持（おおとものやかもち） 萬(wàn)葉集。巻一九。四二九二

　　現(xiàn)代口語(yǔ)譯文：

　　うららかに照っている春の日に雲(yún)雀が（しきりに空に）舞い上がっていて、なんとなくもの悲しい感じがわいてくる。こうしてただひとりでもの思いにふけっていると。

　　原文：

　　君が行く道の長(zhǎng)（なが）てを繰りたたね焼きほろぼさむ天（あめ）の火もがも。

　　――狹野茅上娘子（さののちがみのをとめ）萬(wàn)葉集。巻一五。三七二四

　　現(xiàn)代口語(yǔ)譯文：

　　あなたが流されてお行きになる道の、その長(zhǎng)い道をたぐりよせてたたんで、焼き滅ぼしてしまう天の火があってほしいものです