日語閱讀:銀河鉄道の夜(9)
九、ジョバンニの切符(きっぷ)
「もうここらは白鳥區のおしまいです。ごらんなさい。あれが名高いアルビレオの観測所です。」
窓の外の、まるで花火でいっぱいのような、あまの川のまん中に、黒い大きな建物が四棟(むね)ばかり立って、その一つの平屋根の上に、眼(め)もさめるような、青寶玉(サファイア)と黃玉(トパース)の大きな二つのすきとおった球が、輪になってしずかにくるくるとまわっていました。黃いろのがだんだん向うへまわって行って、青い小さいのがこっちへ進んで來、間もなく二つのはじは、重なり合って、きれいな緑いろの両面凸(とつ)レンズのかたちをつくり、それもだんだん、まん中がふくらみ出して、とうとう青いのは、すっかりトパースの正面に來ましたので、緑の中心と黃いろな明るい環(わ)とができました。それがまただんだん橫へ外(そ)れて、前のレンズの形を逆に繰(く)り返し、とうとうすっとはなれて、サファイアは向うへめぐり、黃いろのはこっちへ進み、また丁度さっきのような風になりました。銀河の、かたちもなく音もない水にかこまれて、ほんとうにその黒い測候所が、睡(ねむ)っているように、しずかによこたわったのです。
「あれは、水の速さをはかる器械です。水も……。」鳥捕(とりと)りが云いかけたとき、
「切符を拝見いたします。」三人の席の橫に、赤い帽子(ぼうし)をかぶったせいの高い車掌(しゃしょう)が、いつかまっすぐに立っていて云いました。鳥捕りは、だまってかくしから、小さな紙きれを出しました。車掌はちょっと見て、すぐ眼をそらして、(あなた方のは?)というように、指をうごかしながら、手をジョバンニたちの方へ出しました。
「さあ、」ジョバンニは困って、もじもじしていましたら、カムパネルラは、わけもないという風で、小さな鼠(ねずみ)いろの切符を出しました。ジョバンニは、すっかりあわててしまって、もしか上著のポケットにでも、入っていたかとおもいながら、手を入れて見ましたら、何か大きな畳(たた)んだ紙きれにあたりました。こんなもの入っていたろうかと思って、急いで出してみましたら、それは四つに折ったはがきぐらいの大きさの緑いろの紙でした。車掌が手を出しているもんですから何でも構わない、やっちまえと思って渡しましたら、車掌はまっすぐに立ち直って叮寧(ていねい)にそれを開いて見ていました。そして読みながら上著のぼたんやなんかしきりに直したりしていましたし燈臺看守も下からそれを熱心にのぞいていましたから、ジョバンニはたしかにあれは証明書か何かだったと考えて少し胸が熱くなるような気がしました。
「これは三次空間の方からお持ちになったのですか。」車掌がたずねました。
「何だかわかりません。」もう大丈夫(だいじょうぶ)だと安心しながらジョバンニはそっちを見あげてくつくつ笑いました。
「よろしゅうございます。南十字(サウザンクロス)へ著きますのは、次の第三時ころになります。」車掌は紙をジョバンニに渡して向うへ行きました。
カムパネルラは、その紙切れが何だったか待ち兼ねたというように急いでのぞきこみました。ジョバンニも全く早く見たかったのです。ところがそれはいちめん黒い唐草(からくさ)のような模様の中に、おかしな十ばかりの字を印刷したものでだまって見ていると何だかその中へ吸い込(こ)まれてしまうような気がするのでした。すると鳥捕りが橫からちらっとそれを見てあわてたように云いました。
「おや、こいつは大したもんですぜ。こいつはもう、ほんとうの天上へさえ行ける切符だ。天上どこじゃない、どこでも勝手にあるける通行券です。こいつをお持ちになれぁ、なるほど、こんな不完全な幻想(げんそう)第四次の銀河鉄道なんか、どこまででも行ける筈(はず)でさあ、あなた方大したもんですね。」
「何だかわかりません。」ジョバンニが赤くなって答えながらそれを又(また)畳んでかくしに入れました。そしてきまりが悪いのでカムパネルラと二人、また窓の外をながめていましたが、その鳥捕りの時々大したもんだというようにちらちらこっちを見ているのがぼんやりわかりました。
「もうじき鷲(わし)の停車場だよ。」カムパネルラが向う岸の、三つならんだ小さな青じろい三角標と地図とを見較(みくら)べて云いました。
ジョバンニはなんだかわけもわからずににわかにとなりの鳥捕りが気の毒でたまらなくなりました。鷺(さぎ)をつかまえてせいせいしたとよろこんだり、白いきれでそれをくるくる包んだり、ひとの切符をびっくりしたように橫目で見てあわててほめだしたり、そんなことを一一考えていると、もうその見ず知らずの鳥捕りのために、ジョバンニの持っているものでも食べるものでもなんでもやってしまいたい、もうこの人のほんとうの幸(さいわい)になるなら自分があの光る天の川の河原(かわら)に立って百年つづけて立って鳥をとってやってもいいというような気がして、どうしてももう黙(だま)っていられなくなりました。ほんとうにあなたのほしいものは一體何ですか、と訊(き)こうとして、それではあんまり出し抜(ぬ)けだから、どうしようかと考えて振(ふ)り返って見ましたら、そこにはもうあの鳥捕りが居ませんでした。網棚(あみだな)の上には白い荷物も見えなかったのです。また窓の外で足をふんばってそらを見上げて鷺を捕る支度(したく)をしているのかと思って、急いでそっちを見ましたが、外はいちめんのうつくしい砂子と白いすすきの波ばかり、あの鳥捕りの広いせなかも尖(とが)った帽子も見えませんでした。
「あの人どこへ行ったろう。」カムパネルラもぼんやりそう云っていました。
「どこへ行ったろう。一體どこでまたあうのだろう。僕(ぼく)はどうしても少しあの人に物を言わなかったろう。」
「ああ、僕もそう思っているよ。」
「僕はあの人が邪魔(じゃま)なような気がしたんだ。だから僕は大へんつらい。」ジョバンニはこんな変てこな気もちは、ほんとうにはじめてだし、こんなこと今まで云ったこともないと思いました。
「何だか蘋果(りんご)の匂(におい)がする。僕いま蘋果のこと考えたためだろうか。」カムパネルラが不思議そうにあたりを見まわしました。
「ほんとうに蘋果の匂だよ。それから野茨(のいばら)の匂もする。」ジョバンニもそこらを見ましたがやっぱりそれは窓からでも入って來るらしいのでした。いま秋だから野茨の花の匂のする筈はないとジョバンニは思いました。
そしたら俄(にわ)かにそこに、つやつやした黒い髪(かみ)の六つばかりの男の子が赤いジャケツのぼたんもかけずひどくびっくりしたような顔をしてがたがたふるえてはだしで立っていました。隣(とな)りには黒い洋服をきちんと著たせいの高い青年が一ぱいに風に吹(ふ)かれているけやきの木のような姿勢で、男の子の手をしっかりひいて立っていました。
「あら、ここどこでしょう。まあ、きれいだわ。」青年のうしろにもひとり十二ばかりの眼の茶いろな可愛(かあい)らしい女の子が黒い外套(がいとう)を著て青年の腕(うで)にすがって不思議そうに窓の外を見ているのでした。
「ああ、ここはランカシャイヤだ。いや、コンネクテカット州だ。いや、ああ、ぼくたちはそらへ來たのだ。わたしたちは天へ行くのです。ごらんなさい。あのしるしは天上のしるしです。もうなんにもこわいことありません。わたくしたちは神さまに召(め)されているのです。」黒服の青年はよろこびにかがやいてその女の子に云(い)いました。けれどもなぜかまた額に深く皺(しわ)を刻んで、それに大へんつかれているらしく、無理に笑いながら男の子をジョバンニのとなりに座(すわ)らせました。
それから女の子にやさしくカムパネルラのとなりの席を指さしました。女の子はすなおにそこへ座って、きちんと両手を組み合せました。
「ぼくおおねえさんのとこへ行くんだよう。」腰掛(こしか)けたばかりの男の子は顔を変にして燈臺看守の向うの席に座ったばかりの青年に云いました。青年は何とも云えず悲しそうな顔をして、じっとその子の、ちぢれてぬれた頭を見ました。女の子は、いきなり両手を顔にあててしくしく泣いてしまいました。
「お父さんやきくよねえさんはまだいろいろお仕事があるのです。けれどももうすぐあとからいらっしゃいます。それよりも、おっかさんはどんなに永く待っていらっしゃったでしょう。わたしの大事なタダシはいまどんな歌をうたっているだろう、雪の降る朝にみんなと手をつないでぐるぐるにわとこのやぶをまわってあそんでいるだろうかと考えたりほんとうに待って心配していらっしゃるんですから、早く行っておっかさんにお目にかかりましょうね。」
「うん、だけど僕、船に乗らなけぁよかったなあ。」
「ええ、けれど、ごらんなさい、そら、どうです、あの立派な川、ね、あすこはあの夏中、ツインクル、ツインクル、リトル、スターをうたってやすむとき、いつも窓からぼんやり白く見えていたでしょう。あすこですよ。ね、きれいでしょう、あんなに光っています。」
泣いていた姉もハンケチで眼をふいて外を見ました。青年は教えるようにそっと姉弟にまた云いました。
「わたしたちはもうなんにもかなしいことないのです。わたしたちはこんないいとこを旅して、じき神さまのとこへ行きます。そこならもうほんとうに明るくて匂がよくて立派な人たちでいっぱいです。そしてわたしたちの代りにボートへ乗れた人たちは、きっとみんな助けられて、心配して待っているめいめいのお父さんやお母さんや自分のお家へやら行くのです。さあ、もうじきですから元気を出しておもしろくうたって行きましょう。」青年は男の子のぬれたような黒い髪をなで、みんなを慰(なぐさ)めながら、自分もだんだん顔いろがかがやいて來ました。
「あなた方はどちらからいらっしゃったのですか。どうなすったのですか。」さっきの燈臺看守がやっと少しわかったように青年にたずねました。青年はかすかにわらいました。
「いえ、氷山にぶっつかって船が沈(しず)みましてね、わたしたちはこちらのお父さんが急な用で二ヶ月前一足さきに本國へお帰りになったのであとから発(た)ったのです。私は大學へはいっていて、家庭教師にやとわれていたのです。ところがちょうど十二日目、今日か昨日(きのう)のあたりです、船が氷山にぶっつかって一ぺんに傾(かたむ)きもう沈みかけました。月のあかりはどこかぼんやりありましたが、霧(きり)が非常に深かったのです。ところがボートは左舷(さげん)の方半分はもうだめになっていましたから、とてもみんなは乗り切らないのです。もうそのうちにも船は沈みますし、私は必死となって、どうか小さな人たちを乗せて下さいと叫(さけ)びました。近くの人たちはすぐみちを開いてそして子供たちのために祈(いの)って呉(く)れました。けれどもそこからボートまでのところにはまだまだ小さな子どもたちや親たちやなんか居て、とても押(お)しのける勇気がなかったのです。それでもわたくしはどうしてもこの方たちをお助けするのが私の義務だと思いましたから前にいる子供らを押しのけようとしました。けれどもまたそんなにして助けてあげるよりはこのまま神のお前にみんなで行く方がほんとうにこの方たちの幸福だとも思いました。それからまたその神にそむく罪はわたくしひとりでしょってぜひとも助けてあげようと思いました。けれどもどうして見ているとそれができないのでした。子どもらばかりボートの中へはなしてやってお母さんが狂気(きょうき)のようにキスを送りお父さんがかなしいのをじっとこらえてまっすぐに立っているなどとてももう腸(はらわた)もちぎれるようでした。そのうち船はもうずんずん沈みますから、私はもうすっかり覚悟(かくご)してこの人たち二人を抱(だ)いて、浮(うか)べるだけは浮ぼうとかたまって船の沈むのを待っていました。誰(たれ)が投げたかライフブイが一つ飛んで來ましたけれども滑(すべ)ってずうっと向うへ行ってしまいました。私は一生けん命で甲板(かんぱん)の格子(こうし)になったとこをはなして、三人それにしっかりとりつきました。どこからともなく〔約二字分空白〕番の聲があがりました。たちまちみんなはいろいろな國語で一ぺんにそれをうたいました。そのとき俄(にわ)かに大きな音がして私たちは水に落ちもう渦(うず)に入ったと思いながらしっかりこの人たちをだいてそれからぼうっとしたと思ったらもうここへ來ていたのです。この方たちのお母さんは一昨年沒(な)くなられました。ええボートはきっと助かったにちがいありません、何せよほど熟練な水夫たちが漕(こ)いですばやく船からはなれていましたから。」
そこらから小さないのりの聲が聞えジョバンニもカムパネルラもいままで忘れていたいろいろのことをぼんやり思い出して眼(め)が熱くなりました。
(ああ、その大きな海はパシフィックというのではなかったろうか。その氷山の流れる北のはての海で、小さな船に乗って、風や凍(こお)りつく潮水や、烈(はげ)しい寒さとたたかって、たれかが一生けんめいはたらいている。ぼくはそのひとにほんとうに気の毒でそしてすまないような気がする。ぼくはそのひとのさいわいのためにいったいどうしたらいいのだろう。)ジョバンニは首を垂れて、すっかりふさぎ込(こ)んでしまいました。
「なにがしあわせかわからないです。ほんとうにどんなつらいことでもそれがただしいみちを進む中でのできごとなら峠(とうげ)の上りも下りもみんなほんとうの幸福に近づく一あしずつですから。」
燈臺守がなぐさめていました。
「ああそうです。ただいちばんのさいわいに至るためにいろいろのかなしみもみんなおぼしめしです。」
青年が祈るようにそう答えました。
そしてあの姉弟(きょうだい)はもうつかれてめいめいぐったり席によりかかって睡(ねむ)っていました。さっきのあのはだしだった足にはいつか白い柔(やわ)らかな靴(くつ)をはいていたのです。
ごとごとごとごと汽車はきらびやかな燐光(りんこう)の川の岸を進みました。向うの方の窓を見ると、野原はまるで幻燈(げんとう)のようでした。百も千もの大小さまざまの三角標、その大きなものの上には赤い點點をうった測量旗も見え、野原のはてはそれらがいちめん、たくさんたくさん集ってぼおっと青白い霧のよう、そこからかまたはもっと向うからかときどきさまざまの形のぼんやりした狼煙(のろし)のようなものが、かわるがわるきれいな桔梗(ききょう)いろのそらにうちあげられるのでした。じつにそのすきとおった奇麗(きれい)な風は、ばらの匂(におい)でいっぱいでした。
「いかがですか。こういう蘋果(りんご)はおはじめてでしょう。」向うの席の燈臺看守がいつか黃金(きん)と紅でうつくしくいろどられた大きな蘋果を落さないように両手で膝(ひざ)の上にかかえていました。
「おや、どっから來たのですか。立派ですねえ。ここらではこんな蘋果ができるのですか。」青年はほんとうにびっくりしたらしく燈臺看守の両手にかかえられた一もりの蘋果を眼を細くしたり首をまげたりしながらわれを忘れてながめていました。
「いや、まあおとり下さい。どうか、まあおとり下さい。」
青年は一つとってジョバンニたちの方をちょっと見ました。
「さあ、向うの坊(ぼっ)ちゃんがた。いかがですか。おとり下さい。」
ジョバンニは坊ちゃんといわれたのですこししゃくにさわってだまっていましたがカムパネルラは
「ありがとう、」と云いました。すると青年は自分でとって一つずつ二人に送ってよこしましたのでジョバンニも立ってありがとうと云いました。
燈臺看守はやっと両腕(りょううで)があいたのでこんどは自分で一つずつ睡っている姉弟の膝にそっと置きました。
「どうもありがとう。どこでできるのですか。こんな立派な蘋果は。」
青年はつくづく見ながら云いました。
「この辺ではもちろん農業はいたしますけれども大ていひとりでにいいものができるような約束(やくそく)になって居(お)ります。農業だってそんなに骨は折れはしません。たいてい自分の望む種子(たね)さえ播(ま)けばひとりでにどんどんできます。米だってパシフィック辺のように殻(から)もないし十倍も大きくて匂もいいのです。けれどもあなたがたのいらっしゃる方なら農業はもうありません。蘋果だってお菓子だってかすが少しもありませんからみんなそのひとそのひとによってちがったわずかのいいかおりになって毛あなからちらけてしまうのです。」
にわかに男の子がぱっちり眼をあいて云いました。
「ああぼくいまお母さんの夢(ゆめ)をみていたよ。お母さんがね立派な戸棚(とだな)や本のあるとこに居てね、ぼくの方を見て手をだしてにこにこにこにこわらったよ。ぼくおっかさん。りんごをひろってきてあげましょうか云ったら眼がさめちゃった。ああここさっきの汽車のなかだねえ。」
「その蘋果(りんご)がそこにあります。このおじさんにいただいたのですよ。」青年が云いました。
「ありがとうおじさん。おや、かおるねえさんまだねてるねえ、ぼくおこしてやろう。ねえさん。ごらん、りんごをもらったよ。おきてごらん。」
姉はわらって眼をさましまぶしそうに両手を眼にあててそれから蘋果を見ました。男の子はまるでパイを喰(た)べるようにもうそれを喰べていました、また折角(せっかく)剝(む)いたそのきれいな皮も、くるくるコルク抜(ぬ)きのような形になって床(ゆか)へ落ちるまでの間にはすうっと、灰いろに光って蒸発してしまうのでした。
二人はりんごを大切にポケットにしまいました。
川下の向う岸に青く茂(しげ)った大きな林が見え、その枝(えだ)には熟してまっ赤に光る円い実がいっぱい、その林のまん中に高い高い三角標が立って、森の中からはオーケストラベルやジロフォンにまじって何とも云えずきれいな音いろが、とけるように浸(し)みるように風につれて流れて來るのでした。
青年はぞくっとしてからだをふるうようにしました。
だまってその譜(ふ)を聞いていると、そこらにいちめん黃いろやうすい緑の明るい野原か敷物かがひろがり、またまっ白な蝋(ろう)のような露(つゆ)が太陽の面を擦(かす)めて行くように思われました。
「まあ、あの烏(からす)。」カムパネルラのとなりのかおると呼ばれた女の子が叫びました。
「からすでない。みんなかささぎだ。」カムパネルラがまた何気なく叱(しか)るように叫びましたので、ジョバンニはまた思わず笑い、女の子はきまり悪そうにしました。まったく河原(かわら)の青じろいあかりの上に、黒い鳥がたくさんたくさんいっぱいに列になってとまってじっと川の微光(びこう)を受けているのでした。
「かささぎですねえ、頭のうしろのとこに毛がぴんと延びてますから。」青年はとりなすように云いました。
向うの青い森の中の三角標はすっかり汽車の正面に來ました。そのとき汽車のずうっとうしろの方からあの聞きなれた〔約二字分空白〕番の讃美歌(さんびか)のふしが聞えてきました。よほどの人數で合唱しているらしいのでした。青年はさっと顔いろが青ざめ、たって一ぺんそっちへ行きそうにしましたが思いかえしてまた座(すわ)りました。かおる子はハンケチを顔にあててしまいました。ジョバンニまで何だか鼻が変になりました。けれどもいつともなく誰(たれ)ともなくその歌は歌い出されだんだんはっきり強くなりました。思わずジョバンニもカムパネルラも一緒(いっしょ)にうたい出したのです。
そして青い橄欖(かんらん)の森が見えない天の川の向うにさめざめと光りながらだんだんうしろの方へ行ってしまいそこから流れて來るあやしい楽器の音ももう汽車のひびきや風の音にすり耗(へ)らされてずうっとかすかになりました。
「あ孔雀(くじゃく)が居るよ。」
「ええたくさん居たわ。」女の子がこたえました。
ジョバンニはその小さく小さくなっていまはもう一つの緑いろの貝ぼたんのように見える森の上にさっさっと青じろく時々光ってその孔雀がはねをひろげたりとじたりする光の反射を見ました。
「そうだ、孔雀の聲だってさっき聞えた。」カムパネルラがかおる子に云(い)いました。
「ええ、三十疋(ぴき)ぐらいはたしかに居たわ。ハープのように聞えたのはみんな孔雀よ。」女の子が答えました。ジョバンニは俄(にわ)かに何とも云えずかなしい気がして思わず
「カムパネルラ、ここからはねおりて遊んで行こうよ。」とこわい顔をして云おうとしたくらいでした。
川は二つにわかれました。そのまっくらな島のまん中に高い高いやぐらが一つ組まれてその上に一人の寛(ゆる)い服を著て赤い帽子(ぼうし)をかぶった男が立っていました。そして両手に赤と青の旗をもってそらを見上げて信號しているのでした。ジョバンニが見ている間その人はしきりに赤い旗をふっていましたが俄かに赤旗をおろしてうしろにかくすようにし青い旗を高く高くあげてまるでオーケストラの指揮者のように烈(はげ)しく振(ふ)りました。すると空中にざあっと雨のような音がして何かまっくらなものがいくかたまりもいくかたまりも鉄砲丸(てっぽうだま)のように川の向うの方へ飛んで行くのでした。ジョバンニは思わず窓からからだを半分出してそっちを見あげました。美しい美しい桔梗(ききょう)いろのがらんとした空の下を実に何萬という小さな鳥どもが幾組(いくくみ)も幾組もめいめいせわしくせわしく鳴いて通って行くのでした。
「鳥が飛んで行くな。」ジョバンニが窓の外で云いました。
「どら、」カムパネルラもそらを見ました。そのときあのやぐらの上のゆるい服の男は俄かに赤い旗をあげて狂気(きょうき)のようにふりうごかしました。するとぴたっと鳥の群は通らなくなりそれと同時にぴしゃぁんという潰(つぶ)れたような音が川下の方で起ってそれからしばらくしいんとしました。と思ったらあの赤帽の信號手がまた青い旗をふって叫(さけ)んでいたのです。
「いまこそわたれわたり鳥、いまこそわたれわたり鳥.」その聲もはっきり聞えました。それといっしょにまた幾萬という鳥の群がそらをまっすぐにかけたのです。二人の顔を出しているまん中の窓からあの女の子が顔を出して美しい頬(ほほ)をかがやかせながらそらを仰(あお)ぎました。
「まあ、この鳥、たくさんですわねえ、あらまあそらのきれいなこと。」女の子はジョバンニにはなしかけましたけれどもジョバンニは生意気ないやだいと思いながらだまって口をむすんでそらを見あげていました。女の子は小さくほっと息をしてだまって席へ戻(もど)りました。カムパネルラが気の毒そうに窓から顔を引っ込(こ)めて地図を見ていました。
「あの人鳥へ教えてるんでしょうか。」女の子がそっとカムパネルラにたずねました。
「わたり鳥へ信號してるんです。きっとどこからかのろしがあがるためでしょう。」カムパネルラが少しおぼつかなそうに答えました。そして車の中はしぃんとなりました。ジョバンニはもう頭を引っ込めたかったのですけれども明るいとこへ顔を出すのがつらかったのでだまってこらえてそのまま立って口笛(くちぶえ)を吹(ふ)いていました。
(どうして僕(ぼく)はこんなにかなしいのだろう。僕はもっとこころもちをきれいに大きくもたなければいけない。あすこの岸のずうっと向うにまるでけむりのような小さな青い火が見える。あれはほんとうにしずかでつめたい。僕はあれをよく見てこころもちをしずめるんだ。)ジョバンニは熱(ほて)って痛いあたまを両手で押(おさ)えるようにしてそっちの方を見ました。(ああほんとうにどこまでもどこまでも僕といっしょに行くひとはないだろうか。カムパネルラだってあんな女の子とおもしろそうに談(はな)しているし僕はほんとうにつらいなあ。)ジョバンニの眼はまた淚(なみだ)でいっぱいになり天の川もまるで遠くへ行ったようにぼんやり白く見えるだけでした。
そのとき汽車はだんだん川からはなれて崖(がけ)の上を通るようになりました。向う岸もまた黒いいろの崖が川の岸を下流に下るにしたがってだんだん高くなって行くのでした。そしてちらっと大きなとうもろこしの木を見ました。その葉はぐるぐるに縮れ葉の下にはもう美しい緑いろの大きな苞(ほう)が赤い毛を吐(は)いて真珠のような実もちらっと見えたのでした。それはだんだん數を増して來てもういまは列のように崖と線路との間にならび思わずジョバンニが窓から顔を引っ込めて向う側の窓を見ましたときは美しいそらの野原の地平線のはてまでその大きなとうもろこしの木がほとんどいちめんに植えられてさやさや風にゆらぎその立派なちぢれた葉のさきからはまるでひるの間にいっぱい日光を吸った金剛石(こんごうせき)のように露(つゆ)がいっぱいについて赤や緑やきらきら燃えて光っているのでした。カムパネルラが「あれとうもろこしだねえ」とジョバンニに云いましたけれどもジョバンニはどうしても気持がなおりませんでしたからただぶっきり棒に野原を見たまま「そうだろう。」と答えました。そのとき汽車はだんだんしずかになっていくつかのシグナルとてんてつ器の燈を過ぎ小さな停車場にとまりました。
その正面の青じろい時計はかっきり第二時を示しその振子(ふりこ)は風もなくなり汽車もうごかずしずかなしずかな野原のなかにカチッカチッと正しく時を刻んで行くのでした。
そしてまったくその振子の音のたえまを遠くの遠くの野原のはてから、かすかなかすかな旋律(せんりつ)が糸のように流れて來るのでした。「新世界交響楽(こうきょうがく)だわ。」姉がひとりごとのようにこっちを見ながらそっと云いました。全くもう車の中ではあの黒服の丈高(たけたか)い青年も誰(たれ)もみんなやさしい夢(ゆめ)を見ているのでした。
(こんなしずかないいとこで僕はどうしてもっと愉快(ゆかい)になれないだろう。どうしてこんなにひとりさびしいのだろう。けれどもカムパネルラなんかあんまりひどい、僕といっしょに汽車に乗っていながらまるであんな女の子とばかり談(はな)しているんだもの。僕はほんとうにつらい。)ジョバンニはまた両手で顔を半分かくすようにして向うの窓のそとを見つめていました。すきとおった硝子(ガラス)のような笛が鳴って汽車はしずかに動き出し、カムパネルラもさびしそうに星めぐりの口笛を吹きました。
「ええ、ええ、もうこの辺はひどい高原ですから。」うしろの方で誰(たれ)かとしよりらしい人のいま眼(め)がさめたという風ではきはき談している聲がしました。
「とうもろこしだって棒で二尺も孔(あな)をあけておいてそこへ播(ま)かないと生えないんです。」
「そうですか。川まではよほどありましょうかねえ、」
「ええええ河までは二千尺から六千尺あります。もうまるでひどい峽谷(きょうこく)になっているんです。」
そうそうここはコロラドの高原じゃなかったろうか、ジョバンニは思わずそう思いました。カムパネルラはまださびしそうにひとり口笛を吹き、女の子はまるで絹で包んだ蘋果(りんご)のような顔いろをしてジョバンニの見る方を見ているのでした。突然(とつぜん)とうもろこしがなくなって巨(おお)きな黒い野原がいっぱいにひらけました。新世界交響楽はいよいよはっきり地平線のはてから湧(わ)きそのまっ黒な野原のなかを一人のインデアンが白い鳥の羽根を頭につけたくさんの石を腕(うで)と胸にかざり小さな弓に矢を番(つが)えて一目散(いちもくさん)に汽車を追って來るのでした。
「あら、インデアンですよ。インデアンですよ。ごらんなさい。」
黒服の青年も眼をさましました。ジョバンニもカムパネルラも立ちあがりました。
「走って來るわ、あら、走って來るわ。追いかけているんでしょう。」
「いいえ、汽車を追ってるんじゃないんですよ。猟(りょう)をするか踴(おど)るかしてるんですよ。」青年はいまどこに居るか忘れたという風にポケットに手を入れて立ちながら云いました。
まったくインデアンは半分は踴っているようでした。第一かけるにしても足のふみようがもっと経済もとれ本気にもなれそうでした。にわかにくっきり白いその羽根は前の方へ倒(たお)れるようになりインデアンはぴたっと立ちどまってすばやく弓を空にひきました。そこから一羽の鶴(つる)がふらふらと落ちて來てまた走り出したインデアンの大きくひろげた両手に落ちこみました。インデアンはうれしそうに立ってわらいました。そしてその鶴をもってこっちを見ている影(かげ)ももうどんどん小さく遠くなり電しんばしらの礙子(がいし)がきらっきらっと続いて二つばかり光ってまたとうもろこしの林になってしまいました。こっち側の窓を見ますと汽車はほんとうに高い高い崖(がけ)の上を走っていてその谷の底には川がやっぱり幅(はば)ひろく明るく流れていたのです。
「ええ、もうこの辺から下りです。何せこんどは一ぺんにあの水面までおりて行くんですから容易じゃありません。この傾斜(けいしゃ)があるもんですから汽車は決して向うからこっちへは來ないんです。そら、もうだんだん早くなったでしょう。」さっきの老人らしい聲が云いました。
どんどんどんどん汽車は降りて行きました。崖のはじに鉄道がかかるときは川が明るく下にのぞけたのです。ジョバンニはだんだんこころもちが明るくなって來ました。汽車が小さな小屋の前を通ってその前にしょんぼりひとりの子供が立ってこっちを見ているときなどは思わずほうと叫びました。
どんどんどんどん汽車は走って行きました。室中(へやじゅう)のひとたちは半分うしろの方へ倒れるようになりながら腰掛(こしかけ)にしっかりしがみついていました。ジョバンニは思わずカムパネルラとわらいました。もうそして天の川は汽車のすぐ橫手をいままでよほど激(はげ)しく流れて來たらしくときどきちらちら光ってながれているのでした。うすあかい河原(かわら)なでしこの花があちこち咲いていました。汽車はようやく落ち著いたようにゆっくりと走っていました。
向うとこっちの岸に星のかたちとつるはしを書いた旗がたっていました。
「あれ何の旗だろうね。」ジョバンニがやっとものを云いました。
「さあ、わからないねえ、地図にもないんだもの。鉄の舟がおいてあるねえ。」
「ああ。」
「橋を架(か)けるとこじゃないんでしょうか。」女の子が云いました。
「あああれ工兵の旗だねえ。架橋(かきょう)演習をしてるんだ。けれど兵隊のかたちが見えないねえ。」
その時向う岸ちかくの少し下流の方で見えない天の川の水がぎらっと光って柱のように高くはねあがりどぉと烈(はげ)しい音がしました。
「発破(はっぱ)だよ、発破だよ。」カムパネルラはこおどりしました。
その柱のようになった水は見えなくなり大きな鮭(さけ)や鱒(ます)がきらっきらっと白く腹を光らせて空中に拋(ほう)り出されて円い輪を描いてまた水に落ちました。ジョバンニはもうはねあがりたいくらい気持が軽くなって云いました。
「空の工兵大隊だ。どうだ、鱒やなんかがまるでこんなになってはねあげられたねえ。僕こんな愉快な旅はしたことない。いいねえ。」
「あの鱒なら近くで見たらこれくらいあるねえ、たくさんさかな居るんだな、この水の中に。」
「小さなお魚もいるんでしょうか。」女の子が談(はなし)につり込(こ)まれて云いました。
「居るんでしょう。大きなのが居るんだから小さいのもいるんでしょう。けれど遠くだからいま小さいの見えなかったねえ。」ジョバンニはもうすっかり機嫌(きげん)が直って面白(おもしろ)そうにわらって女の子に答えました。
「あれきっと雙子(ふたご)のお星さまのお宮だよ。」男の子がいきなり窓の外をさして叫(さけ)びました。
右手の低い丘(おか)の上に小さな水晶(すいしょう)ででもこさえたような二つのお宮がならんで立っていました。
「雙子のお星さまのお宮って何だい。」
「あたし前になんべんもお母さんから聴(き)いたわ。ちゃんと小さな水晶のお宮で二つならんでいるからきっとそうだわ。」
「はなしてごらん。雙子のお星さまが何したっての。」
「ぼくも知ってらい。雙子のお星さまが野原へ遊びにでてからすと喧嘩(けんか)したんだろう。」
「そうじゃないわよ。あのね、天の川の岸にね、おっかさんお話なすったわ、……」
「それから彗星(ほうきぼし)がギーギーフーギーギーフーて云って來たねえ。」
「いやだわたあちゃんそうじゃないわよ。それはべつの方だわ。」
「するとあすこにいま笛(ふえ)を吹(ふ)いて居るんだろうか。」
「いま海へ行ってらあ。」
「いけないわよ。もう海からあがっていらっしゃったのよ。」
「そうそう。ぼく知ってらあ、ぼくおはなししよう。」
川の向う岸が俄(にわ)かに赤くなりました。楊(やなぎ)の木や何かもまっ黒にすかし出され見えない天の川の波もときどきちらちら針のように赤く光りました。まったく向う岸の野原に大きなまっ赤な火が燃されその黒いけむりは高く桔梗(ききょう)いろのつめたそうな天をも焦(こ)がしそうでした。ルビーよりも赤くすきとおりリチウムよりもうつくしく酔(よ)ったようになってその火は燃えているのでした。
「あれは何の火だろう。あんな赤く光る火は何を燃やせばできるんだろう。」ジョバンニが云(い)いました。
「蝎(さそり)の火だな。」カムパネルラが又(また)地図と首っ引きして答えました。
「あら、蝎の火のことならあたし知ってるわ。」
「蝎の火ってなんだい。」ジョバンニがききました。
「蝎がやけて死んだのよ。その火がいまでも燃えてるってあたし何べんもお父さんから聴いたわ。」
「蝎って、蟲だろう。」
「ええ、蝎は蟲よ。だけどいい蟲だわ。」
「蝎いい蟲じゃないよ。僕博物館でアルコールにつけてあるの見た。尾にこんなかぎがあってそれで螫(さ)されると死ぬって先生が云ったよ。」
「そうよ。だけどいい蟲だわ、お父さん斯(こ)う云ったのよ。むかしのバルドラの野原に一ぴきの蝎がいて小さな蟲やなんか殺してたべて生きていたんですって。するとある日いたちに見附(みつ)かって食べられそうになったんですって。さそりは一生けん命遁(に)げて遁げたけどとうとういたちに押(おさ)えられそうになったわ、そのときいきなり前に井戸があってその中に落ちてしまったわ、もうどうしてもあがられないでさそりは溺(おぼ)れはじめたのよ。そのときさそりは斯う云ってお祈(いの)りしたというの、
ああ、わたしはいままでいくつのものの命をとったかわからない、そしてその私がこんどいたちにとられようとしたときはあんなに一生けん命にげた。それでもとうとうこんなになってしまった。ああなんにもあてにならない。どうしてわたしはわたしのからだをだまっていたちに呉(く)れてやらなかったろう。そしたらいたちも一日生きのびたろうに。どうか神さま。私の心をごらん下さい。こんなにむなしく命をすてずどうかこの次にはまことのみんなの幸(さいわい)のために私のからだをおつかい下さい。って云ったというの。そしたらいつか蝎はじぶんのからだがまっ赤なうつくしい火になって燃えてよるのやみを照らしているのを見たって。いまでも燃えてるってお父さん仰(おっしゃ)ったわ。ほんとうにあの火それだわ。」
「そうだ。見たまえ。そこらの三角標はちょうどさそりの形にならんでいるよ。」
ジョバンニはまったくその大きな火の向うに三つの三角標がちょうどさそりの腕(うで)のようにこっちに五つの三角標がさそりの尾やかぎのようにならんでいるのを見ました。そしてほんとうにそのまっ赤なうつくしいさそりの火は音なくあかるくあかるく燃えたのです。
その火がだんだんうしろの方になるにつれてみんなは何とも云えずにぎやかなさまざまの楽の音(ね)や草花の匂(におい)のようなもの口笛や人々のざわざわ云う聲やらを聞きました。それはもうじきちかくに町か何かがあってそこにお祭でもあるというような気がするのでした。
「ケンタウル露(つゆ)をふらせ。」いきなりいままで睡(ねむ)っていたジョバンニのとなりの男の子が向うの窓を見ながら叫んでいました。
ああそこにはクリスマストリイのようにまっ青な唐檜(とうひ)かもみの木がたってその中にはたくさんのたくさんの豆電燈(まめでんとう)がまるで千の蛍(ほたる)でも集ったようについていました。
「ああ、そうだ、今夜ケンタウル祭だねえ。」
「ああ、ここはケンタウルの村だよ。」カムパネルラがすぐ云いました。〔以下原稿一枚?なし〕
「ボール投げなら僕(ぼく)決してはずさない。」
男の子が大威張(おおいば)りで云いました。
「もうじきサウザンクロスです。おりる支度(したく)をして下さい。」青年がみんなに云いました。
「僕も少し汽車へ乗ってるんだよ。」男の子が云いました。カムパネルラのとなりの女の子はそわそわ立って支度をはじめましたけれどもやっぱりジョバンニたちとわかれたくないようなようすでした。
「ここでおりなけぁいけないのです。」青年はきちっと口を結んで男の子を見おろしながら云いました。
「厭(いや)だい。僕もう少し汽車へ乗ってから行くんだい。」
ジョバンニがこらえ兼ねて云いました。
「僕たちと一緒(いっしょ)に乗って行こう。僕たちどこまでだって行ける切符(きっぷ)持ってるんだ。」
「だけどあたしたちもうここで降りなけぁいけないのよ。ここ天上へ行くとこなんだから。」女の子がさびしそうに云いました。
「天上へなんか行かなくたっていいじゃないか。ぼくたちここで天上よりももっといいとこをこさえなけぁいけないって僕の先生が云ったよ。」
「だっておっ母さんも行ってらっしゃるしそれに神さまが仰(お)っしゃるんだわ。」
「そんな神さまうその神さまだい。」
「あなたの神さまうその神さまよ。」
「そうじゃないよ。」
「あなたの神さまってどんな神さまですか。」青年は笑いながら云いました。
「ぼくほんとうはよく知りません、けれどもそんなんでなしにほんとうのたった一人の神さまです。」
「ほんとうの神さまはもちろんたった一人です。」
「ああ、そんなんでなしにたったひとりのほんとうのほんとうの神さまです。」
「だからそうじゃありませんか。わたくしはあなた方がいまにそのほんとうの神さまの前にわたくしたちとお會いになることを祈ります。」青年はつつましく両手を組みました。女の子もちょうどその通りにしました。みんなほんとうに別れが惜(お)しそうでその顔いろも少し青ざめて見えました。ジョバンニはあぶなく聲をあげて泣き出そうとしました。
「さあもう支度はいいんですか。じきサウザンクロスですから。」
ああそのときでした。見えない天の川のずうっと川下に青や橙(だいだい)やもうあらゆる光でちりばめられた十字架(じゅうじか)がまるで一本の木という風に川の中から立ってかがやきその上には青じろい雲がまるい環(わ)になって後光のようにかかっているのでした。汽車の中がまるでざわざわしました。みんなあの北の十字のときのようにまっすぐに立ってお祈りをはじめました。あっちにもこっちにも子供が瓜(うり)に飛びついたときのようなよろこびの聲や何とも云いようない深いつつましいためいきの音ばかりきこえました。そしてだんだん十字架は窓の正面になりあの蘋果(りんご)の肉のような青じろい環の雲もゆるやかにゆるやかに繞(めぐ)っているのが見えました。
「ハルレヤハルレヤ。」明るくたのしくみんなの聲はひびきみんなはそのそらの遠くからつめたいそらの遠くからすきとおった何とも云えずさわやかなラッパの聲をききました。そしてたくさんのシグナルや電燈の燈(あかり)のなかを汽車はだんだんゆるやかになりとうとう十字架のちょうどま向いに行ってすっかりとまりました。
「さあ、下りるんですよ。」青年は男の子の手をひきだんだん向うの出口の方へ歩き出しました。
「じゃさよなら。」女の子がふりかえって二人に云いました。
「さよなら。」ジョバンニはまるで泣き出したいのをこらえて怒(おこ)ったようにぶっきり棒に云いました。女の子はいかにもつらそうに眼(め)を大きくしても一度こっちをふりかえってそれからあとはもうだまって出て行ってしまいました。汽車の中はもう半分以上も空いてしまい俄(にわ)かにがらんとしてさびしくなり風がいっぱいに吹(ふ)き込(こ)みました。
そして見ているとみんなはつつましく列を組んであの十字架の前の天の川のなぎさにひざまずいていました。そしてその見えない天の川の水をわたってひとりの神々(こうごう)しい白いきものの人が手をのばしてこっちへ來るのを二人は見ました。けれどもそのときはもう硝子(ガラス)の呼子(よびこ)は鳴らされ汽車はうごき出しと思ううちに銀いろの霧(きり)が川下の方からすうっと流れて來てもうそっちは何も見えなくなりました。ただたくさんのくるみの木が葉をさんさんと光らしてその霧の中に立ち黃金(きん)の円光をもった電気栗鼠(りす)が可愛(かあい)い顔をその中からちらちらのぞいているだけでした。
そのときすうっと霧がはれかかりました。どこかへ行く街道らしく小さな電燈の一列についた通りがありました。それはしばらく線路に沿って進んでいました。そして二人がそのあかしの前を通って行くときはその小さな豆いろの火はちょうど挨拶(あいさつ)でもするようにぽかっと消え二人が過ぎて行くときまた點(つ)くのでした。
ふりかえって見るとさっきの十字架はすっかり小さくなってしまいほんとうにもうそのまま胸にも吊(つる)されそうになり、さっきの女の子や青年たちがその前の白い渚(なぎさ)にまだひざまずいているのかそれともどこか方角もわからないその天上へ行ったのかぼんやりして見分けられませんでした。
ジョバンニはああと深く息しました。
「カムパネルラ、また僕たち二人きりになったねえ、どこまでもどこまでも一緒に行こう。僕はもうあのさそりのようにほんとうにみんなの幸(さいわい)のためならば僕のからだなんか百ぺん灼(や)いてもかまわない。」
「うん。僕だってそうだ。」カムパネルラの眼にはきれいな涙(なみだ)がうかんでいました。
「けれどもほんとうのさいわいは一體何だろう。」ジョバンニが云いました。
「僕わからない。」カムパネルラがぼんやり云いました。
「僕たちしっかりやろうねえ。」ジョバンニが胸いっぱい新らしい力が湧(わ)くようにふうと息をしながら云いました。
「あ、あすこ石炭袋(ぶくろ)だよ。そらの孔(あな)だよ。」カムパネルラが少しそっちを避(さ)けるようにしながら天の川のひととこを指さしました。ジョバンニはそっちを見てまるでぎくっとしてしまいました。天の川の一とこに大きなまっくらな孔がどほんとあいているのです。その底がどれほど深いかその奧(おく)に何があるかいくら眼をこすってのぞいてもなんにも見えずただ眼がしんしんと痛むのでした。ジョバンニが云いました。
「僕もうあんな大きな暗(やみ)の中だってこわくない。きっとみんなのほんとうのさいわいをさがしに行く。どこまでもどこまでも僕たち一緒に進んで行こう。」
「ああきっと行くよ。ああ、あすこの野原はなんてきれいだろう。みんな集ってるねえ。あすこがほんとうの天上なんだ。あっあすこにいるのぼくのお母さんだよ。」カムパネルラは俄(にわ)かに窓の遠くに見えるきれいな野原を指して叫(さけ)びました。
ジョバンニもそっちを見ましたけれどもそこはぼんやり白くけむっているばかりどうしてもカムパネルラが云ったように思われませんでした。何とも云えずさびしい気がしてぼんやりそっちを見ていましたら向うの河岸に二本の電信ばしらが丁度両方から腕(うで)を組んだように赤い腕木をつらねて立っていました。
「カムパネルラ、僕たち一緒に行こうねえ。」ジョバンニが斯(こ)う云いながらふりかえって見ましたらそのいままでカムパネルラの座(すわ)っていた席にもうカムパネルラの形は見えずただ黒いびろうどばかりひかっていました。ジョバンニはまるで鉄砲丸(てっぽうだま)のように立ちあがりました。そして誰(たれ)にも聞えないように窓の外へからだを乗り出して力いっぱいはげしく胸をうって叫びそれからもう咽喉(のど)いっぱい泣きだしました。もうそこらが一ぺんにまっくらになったように思いました。
ジョバンニは眼をひらきました。もとの丘(おか)の草の中につかれてねむっていたのでした。胸は何だかおかしく熱(ほて)り頬(ほほ)にはつめたい涙がながれていました。
ジョバンニはばねのようにはね起きました。町はすっかりさっきの通りに下でたくさんの燈を綴(つづ)ってはいましたがその光はなんだかさっきよりは熱したという風でした。そしてたったいま夢(ゆめ)であるいた天の川もやっぱりさっきの通りに白くぼんやりかかりまっ黒な南の地平線の上では殊(こと)にけむったようになってその右には蠍座(さそりざ)の赤い星がうつくしくきらめき、そらぜんたいの位置はそんなに変ってもいないようでした。
ジョバンニは一さんに丘を走って下りました。まだ夕ごはんをたべないで待っているお母さんのことが胸いっぱいに思いだされたのです。どんどん黒い松(まつ)の林の中を通ってそれからほの白い牧場の柵(さく)をまわってさっきの入口から暗い牛舎の前へまた來ました。そこには誰かがいま帰ったらしくさっきなかった一つの車が何かの樽(たる)を二つ乗っけて置いてありました。
「今晩は、」ジョバンニは叫びました。
「はい。」白い太いずぼんをはいた人がすぐ出て來て立ちました。
「何のご用ですか。」
「今日牛乳がぼくのところへ來なかったのですが」
「あ済みませんでした。」その人はすぐ奧へ行って一本の牛乳瓶(ぎゅうにゅうびん)をもって來てジョバンニに渡(わた)しながらまた云いました。
「ほんとうに、済みませんでした。今日はひるすぎうっかりしてこうしの棚をあけて置いたもんですから大將早速親牛のところへ行って半分ばかり呑んでしまいましてね……」その人はわらいました。
「そうですか。ではいただいて行きます。」
「ええ、どうも済みませんでした。」
「いいえ。」
ジョバンニはまだ熱い乳の瓶を両方のてのひらで包むようにもって牧場の柵を出ました。
そしてしばらく木のある町を通って大通りへ出てまたしばらく行きますとみちは十文字になってその右手の方、通りのはずれにさっきカムパネルラたちのあかりを流しに行った川へかかった大きな橋のやぐらが夜のそらにぼんやり立っていました。
ところがその十字になった町かどや店の前に女たちが七八人ぐらいずつ集って橋の方を見ながら何かひそひそ談(はな)しているのです。それから橋の上にもいろいろなあかりがいっぱいなのでした。
ジョバンニはなぜかさあっと胸が冷たくなったように思いました。そしていきなり近くの人たちへ
「何かあったんですか。」と叫ぶようにききました。
「こどもが水へ落ちたんですよ。」一人が云いますとその人たちは一斉(いっせい)にジョバンニの方を見ました。ジョバンニはまるで夢中で橋の方へ走りました。橋の上は人でいっぱいで河が見えませんでした。白い服を著た巡査(じゅんさ)も出ていました。
ジョバンニは橋の袂(たもと)から飛ぶように下の広い河原へおりました。
その河原の水際(みずぎわ)に沿ってたくさんのあかりがせわしくのぼったり下ったりしていました。向う岸の暗いどてにも火が七つ八つうごいていました。そのまん中をもう烏瓜(からすうり)のあかりもない川が、わずかに音をたてて灰いろにしずかに流れていたのでした。
河原のいちばん下流の方へ州(す)のようになって出たところに人の集りがくっきりまっ黒に立っていました。ジョバンニはどんどんそっちへ走りました。するとジョバンニはいきなりさっきカムパネルラといっしょだったマルソに會いました。マルソがジョバンニに走り寄ってきました。
「ジョバンニ、カムパネルラが川へはいったよ。」
「どうして、いつ。」
「ザネリがね、舟の上から烏うりのあかりを水の流れる方へ押(お)してやろうとしたんだ。そのとき舟がゆれたもんだから水へ落っこったろう。するとカムパネルラがすぐ飛びこんだんだ。そしてザネリを舟の方へ押してよこした。ザネリはカトウにつかまった。けれどもあとカムパネルラが見えないんだ。」
「みんな探してるんだろう。」
「ああすぐみんな來た。カムパネルラのお父さんも來た。けれども見附(みつ)からないんだ。ザネリはうちへ連れられてった。」
ジョバンニはみんなの居るそっちの方へ行きました。そこに學生たち町の人たちに囲まれて青じろい尖(とが)ったあごをしたカムパネルラのお父さんが黒い服を著てまっすぐに立って右手に持った時計をじっと見つめていたのです。
みんなもじっと河を見ていました。誰(たれ)も一言も物を云う人もありませんでした。ジョバンニはわくわくわくわく足がふるえました。魚をとるときのアセチレンランプがたくさんせわしく行ったり來たりして黒い川の水はちらちら小さな波をたてて流れているのが見えるのでした。
下流の方は川はば一ぱい銀河が巨(おお)きく寫ってまるで水のないそのままのそらのように見えました。
ジョバンニはそのカムパネルラはもうあの銀河のはずれにしかいないというような気がしてしかたなかったのです。
けれどもみんなはまだ、どこかの波の間から、
「ぼくずいぶん泳いだぞ。」と云いながらカムパネルラが出て來るか或(ある)いはカムパネルラがどこかの人の知らない洲にでも著いて立っていて誰かの來るのを待っているかというような気がして仕方ないらしいのでした。けれども俄(にわ)かにカムパネルラのお父さんがきっぱり云いました。
「もう駄目(だめ)です。落ちてから四十五分たちましたから。」
ジョバンニは思わずかけよって博士の前に立って、ぼくはカムパネルラの行った方を知っていますぼくはカムパネルラといっしょに歩いていたのですと云おうとしましたがもうのどがつまって何とも云えませんでした。すると博士はジョバンニが挨拶(あいさつ)に來たとでも思ったものですか、しばらくしげしげジョバンニを見ていましたが
「あなたはジョバンニさんでしたね。どうも今晩はありがとう。」と叮(てい)ねいに云いました。
ジョバンニは何も云えずにただおじぎをしました。
「あなたのお父さんはもう帰っていますか。」博士は堅(かた)く時計を握(にぎ)ったまままたききました。
「いいえ。」ジョバンニはかすかに頭をふりました。
「どうしたのかなあ。ぼくには一昨日(おととい)大へん元気な便りがあったんだが。今日あたりもう著くころなんだが。船が遅(おく)れたんだな。ジョバンニさん。あした放課後みなさんとうちへ遊びに來てくださいね。」
そう云いながら博士はまた川下の銀河のいっぱいにうつった方へじっと眼を送りました。
ジョバンニはもういろいろなことで胸がいっぱいでなんにも云えずに博士の前をはなれて早くお母さんに牛乳を持って行ってお父さんの帰ることを知らせようと思うともう一目散に河原を街の方へ走りました。
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