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日本名家名篇-《杜子春》

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  一

  或ある春の日暮です。

  唐とうの都洛陽らくようの西の門の下に、ぼんやり空を仰いでいる、一人の若者がありました。

  若者は名を杜子春といって、元は金持の息子でしたが、今は財産を費つかい盡して、その日の暮しにも困る位、憐あわれな身分になっているのです。

  何しろその頃洛陽といえば、天下に並ぶもののない、繁昌はんじょうを極きわめた都ですから、往來にはまだしっきりなく、人や車が通っていました。門一ぱいに當っている、油のような夕日の光の中に、老人のかぶった紗しゃの帽子や、土耳古トルコの女の金の耳環みみわや、白馬しろうまに飾った色糸の手綱たづなが、絶えず流れて行く容子ようすは、まるで畫のような美しさです。

  しかし杜子春は相変らず、門の壁に身を憑もたせて、ぼんやり空ばかり眺ながめていました??栅摔稀ⅳ猡殼ぴ陇?、うらうらと靡なびいた霞かすみの中に、まるで爪の痕あとかと思う程、かすかに白く浮んでいるのです。

  「日は暮れるし、腹は減るし、その上もうどこへ行っても、泊めてくれる所はなさそうだし――こんな思いをして生きている位なら、一そ川へでも身を投げて、死んでしまった方がましかも知れない」

  杜子春はひとりさっきから、こんな取りとめもないことを思いめぐらしていたのです。

  するとどこからやって來たか、突然彼の前へ足を止めた、片目眇すがめの老人があります。それが夕日の光を浴びて、大きな影を門へ落すと、じっと杜子春の顔を見ながら、

  「お前は何を考えているのだ」と、橫柄に聲をかけました。

  「私わたしですか。私は今夜寢る所もないので、どうしたものかと考えているのです」

  老人の尋ね方が急でしたから、杜子春はさすがに眼を伏せて、思わず正直な答をしました。

  「そうか。それは可哀そうだな」

  老人は暫しばらく何事か考えているようでしたが、やがて、往來にさしている夕日の光を指さしながら、

  「ではおれが好いいことを一つ教えてやろう。今この夕日の中に立って、お前の影が地に映ったら、その頭に當る所を夜中よなかに掘って見るが好い。きっと車に一ぱいの黃金おうごんが埋うまっている筈はずだから」

  「ほんとうですか」

  杜子春は驚いて、伏せていた眼を挙あげました。ところが更に不思議なことには、あの老人はどこへ行ったか、もうあたりにはそれらしい、影も形も見當りません。その代り空の月の色は前よりも猶なお白くなって、休みない往來の人通りの上には、もう気の早い蝙蝠こうもりが二三匹ひらひら舞っていました。

  二

  杜子春は一日の內に、洛陽の都でも唯ただ一人という大金持になりました。あの老人の言葉通り、夕日に影を映して見て、その頭に當る所を、夜中にそっと掘って見たら、大きな車にも余る位、黃金が一山出て來たのです。

  大金持になった杜子春は、すぐに立派な家うちを買って、玄宗げんそう皇帝にも負けない位、贅沢ぜいたくな暮しをし始めました。蘭陵らんりょうの酒を買わせるやら、桂州けいしゅうの竜眼肉りゅうがんにくをとりよせるやら、日に四度よたび色の変る牡丹ぼたんを庭に植えさせるやら、白孔雀しろくじゃくを何羽も放し飼いにするやら、玉を集めるやら、錦にしきを縫わせるやら、香木こうぼくの車を造らせるやら、象牙ぞうげの椅子を誂あつらえるやら、その贅沢を一々書いていては、いつになってもこの話がおしまいにならない位です。

  するとこういう噂うわさを聞いて、今までは路みちで行き合っても、挨拶あいさつさえしなかった友だちなどが、朝夕遊びにやって來ました。それも一日毎ごとに數が増して、半年ばかり経たつ內には、洛陽の都に名を知られた才子や美人が多い中で、杜子春の家へ來ないものは、一人もない位になってしまったのです。杜子春はこの御客たちを相手に、毎日酒盛りを開きました。その酒盛りの又盛さかんなことは、中々なかなか口には盡されません。極ごくかいつまんだだけをお話しても、杜子春が金の杯さかずきに西洋から來た葡萄酒ぶどうしゅを汲くんで、天竺てんじく生れの魔法使が刀を呑のんで見せる蕓に見とれていると、そのまわりには二十人の女たちが、十人は翡翠ひすいの蓮はすの花を、十人は瑪瑙めのうの牡丹の花を、いずれも髪に飾りながら、笛や琴を節ふし面白く奏しているという景色なのです。

  しかしいくら大金持でも、御金には際限がありますから、さすがに贅沢家の杜子春も、一年二年と経つ內には、だんだん貧乏になり出しました。そうすると人間は薄情なもので、昨日きのうまでは毎日來た友だちも、今日は門の前を通ってさえ、挨拶一つして行きません。ましてとうとう三年目の春、又杜子春が以前の通り、一文無しになって見ると、広い洛陽の都の中にも、彼に宿を貸そうという家は、一軒もなくなってしまいました。いや、宿を貸すどころか、今では椀わんに一杯の水も、恵んでくれるものはないのです。

  そこで彼は或日の夕方、もう一度あの洛陽の西の門の下へ行って、ぼんやり空を眺めながら、途方に暮れて立っていました。するとやはり昔のように、片目眇すがめの老人が、どこからか姿を現して、

  「お前は何を考えているのだ」と、聲をかけるではありませんか。

  杜子春は老人の顔を見ると、恥しそうに下を向いたまま、暫くは返事もしませんでした。が、老人はその日も親切そうに、同じ言葉を繰返しますから、こちらも前と同じように、

  「私は今夜寢る所もないので、どうしたものかと考えているのです」と、恐る恐る返事をしました。

  「そうか。それは可哀そうだな。ではおれが好いいことを一つ教えてやろう。今この夕日の中へ立って、お前の影が地に映ったら、その胸に當る所を、夜中に掘って見るが好い。きっと車に一ぱいの黃金が埋まっている筈だから」

  老人はこう言ったと思うと、今度もまた人ごみの中へ、掻かき消すように隠れてしまいました。

  杜子春はその翌日から、忽たちまち天下第一の大金持に返りました。と同時に相変らず、仕放題な贅沢をし始めました。庭に咲いている牡丹の花、その中に眠っている白孔雀、それから刀を呑んで見せる、天竺から來た魔法使――すべてが昔の通りなのです。

  ですから車に一ぱいにあった、あの夥おびただしい黃金も、又三年ばかり経つ內には、すっかりなくなってしまいました。

  三

  「お前は何を考えているのだ」

  片目眇すがめの老人は、三度ど杜子春とししゅんの前へ來て、同じことを問いかけました。勿論もちろん彼はその時も、洛陽の西の門の下に、ほそぼそと霞を破っている三日月の光を眺めながら、ぼんやり佇たたずんでいたのです。

  「私ですか。私は今夜寢る所もないので、どうしようかと思っているのです」

  「そうか。それは可哀そうだな。ではおれが好いことを教えてやろう。今この夕日の中へ立って、お前の影が地に映ったら、その腹に當る所を、夜中に掘って見るが好い。きっと車に一ぱいの――」

  老人がここまで言いかけると、杜子春は急に手を挙げて、その言葉を遮さえぎりました。

  「いや、お金はもういらないのです」

  「金はもういらない? ははあ、では贅沢をするにはとうとう飽きてしまったと見えるな」

  老人は審いぶかしそうな眼つきをしながら、じっと杜子春の顔を見つめました。

  「何、贅沢に飽きたのじゃありません。人間というものに愛想あいそがつきたのです」

  杜子春は不平そうな顔をしながら、突慳貪つっけんどんにこう言いました。

  「それは面白いな。どうして又人間に愛想が盡きたのだ?」

  「人間は皆薄情です。私が大金持になった時には、世辭も追従ついしょうもしますけれど、一旦貧乏になって御覧なさい。柔やさしい顔さえもして見せはしません。そんなことを考えると、たといもう一度大金持になったところが、何にもならないような気がするのです」

  老人は杜子春の言葉を聞くと、急ににやにや笑い出しました。

  「そうか。いや、お前は若い者に似合わず、感心に物のわかる男だ。ではこれからは貧乏をしても、安らかに暮して行くつもりか」

  杜子春はちょいとためらいました。が、すぐに思い切った眼を挙げると、訴えるように老人の顔を見ながら、

  「それも今の私には出來ません。ですから私はあなたの弟子でしになって、仙術せんじゅつの修業をしたいと思うのです。いいえ、隠してはいけません。あなたは道徳の高い仙人でしょう。仙人でなければ、一夜ひとよの內に私を天下第一の大金持にすることは出來ない筈です。どうか私の先生になって、不思議な仙術を教えて下さい」

  老人は眉まゆをひそめたまま、暫くは黙って、何事か考えているようでしたが、やがて又にっこり笑いながら、

  「いかにもおれは峨眉山がびさんに棲すんでいる、鉄冠子てっかんしという仙人だ。始めお前の顔を見た時、どこか物わかりが好さそうだったから、二度まで大金持にしてやったのだが、それ程仙人になりたければ、おれの弟子にとり立ててやろう」と、快く願ねがいを容いれてくれました。

  杜子春は喜んだの、喜ばないのではありません。老人の言葉がまだ終らない內に、彼は大地に額をつけて、何度も鉄冠子に御時宜おじぎをしました。

  「いや、そう御禮などは言って貰うまい。いくらおれの弟子にしたところが、立派な仙人になれるかなれないかは、お前次第で決まることだからな。――が、ともかくもまずおれと一しょに、峨眉山の奧へ來て見るが好いい。おお、幸さいわい、ここに竹杖たけづえが一本落ちている。では早速これへ乗って、一飛びに空を渡るとしよう」

  鉄冠子はそこにあった青竹を一本拾い上げると、口の中うちに咒文じゅもんを唱えながら、杜子春と一しょにその竹へ、馬にでも乗るように跨またがりました。すると不思議ではありませんか。竹杖は忽ち竜のように、勢いきおいよく大空へ舞い上って、晴れ渡った春の夕空を峨眉山の方角へ飛んで行きました。

  杜子春は膽きもをつぶしながら、恐る恐る下を見下しました。が、下には唯青い山々が夕明ゆうあかりの底に見えるばかりで、あの洛陽の都の西の門は、(とうに霞に紛れたのでしょう)どこを探しても見當りません。その內に鉄冠子は、白い鬢びんの毛を風に吹かせて、高らかに歌を唱うたい出しました。

  朝あしたに北海に遊び、暮くれには蒼梧そうご。

  袖裏しゅうりの青蛇せいだ、膽気粗たんきそなり。

  三たび岳陽に入れども、人識しらず。

  朗吟して、飛過ひかす洞庭湖どうていこ。

  四

  二人を乗せた青竹は、間もなく峨眉山へ舞い下さがりました。

  そこは深い谷に臨んだ、幅の広い一枚巖の上でしたが、よくよく高い所だと見えて、中空なかぞらに垂れた北斗の星が、茶碗ちゃわん程の大きさに光っていました。元より人跡じんせきの絶えた山ですから、あたりはしんと靜まり返って、やっと耳にはいるものは、後うしろの絶壁に生はえている、曲りくねった一株の松が、こうこうと夜風に鳴る音だけです。

  二人がこの巖の上に來ると、鉄冠子は杜子春を絶壁の下に坐らせて、

  「おれはこれから天上へ行って、西王母せいおうぼに御眼にかかって來るから、お前はその間ここに坐って、おれの帰るのを待っているが好いい。多分おれがいなくなると、いろいろな魔性ましょうが現れて、お前をたぶらかそうとするだろうが、たといどんなことが起ろうとも、決して聲を出すのではないぞ。もし一言ひとことでも口を利きいたら、お前は到底仙人にはなれないものだと覚悟をしろ。好いいか。天地が裂けても、黙っているのだぞ」と言いました。

  「大丈夫です。決して聲なぞは出しません。命がなくなっても、黙っています」

  「そうか。それを聞いて、おれも安心した。ではおれは行って來るから」

  老人は杜子春に別れを告げると、又あの竹杖に跨って、夜目にも削ったような山々の空へ、一文字に消えてしまいました。

  杜子春はたった一人、巖の上に坐ったまま、靜しずかに星を眺めていました。するとかれこれ半時はんときばかり経って、深山の夜気が肌寒く薄い著物に透とおり出した頃、突然空中に聲があって、

  「そこにいるのは何者だ」と、叱りつけるではありませんか。

  しかし杜子春は仙人の教おしえ通り、何とも返事をしずにいました。

  ところが又暫くすると、やはり同じ聲が響いて、

  「返事をしないと立ちどころに、命はないものと覚悟しろ」と、いかめしく嚇おどしつけるのです。

  杜子春は勿論黙っていました。

  と、どこから登って來たか、爛々らんらんと眼を光らせた虎とらが一匹、忽然こつぜんと巖の上に躍おどり上って、杜子春の姿を睨にらみながら、一聲高く哮たけりました。のみならずそれと同時に、頭の上の松の枝が、烈はげしくざわざわ揺れたと思うと、後うしろの絶壁の頂からは、四斗樽しとだる程の白蛇はくだが一匹、炎のような舌を吐いて、見る見る近くへ下りて來るのです。

  杜子春はしかし平然と、眉毛まゆげも動かさずに坐っていました。

  虎と蛇とは、一つ餌食えじきを狙ねらって、互に隙すきでも窺うかがうのか、暫くは睨合いの體ていでしたが、やがてどちらが先ともなく、一時に杜子春に飛びかかりました。が虎の牙きばに噛かまれるか、蛇の舌に呑のまれるか、杜子春の命は瞬またたく內に、なくなってしまうと思った時、虎と蛇とは霧の如く、夜風と共に消え失うせて、後には唯、絶壁の松が、さっきの通りこうこうと枝を鳴らしているばかりなのです。杜子春はほっと一息しながら、今度はどんなことが起るかと、心待ちに待っていました。

  すると一陣の風が吹き起って、墨のような黒雲が一面にあたりをとざすや否や、うす紫の稲妻がやにわに闇を二つに裂いて、凄すさまじく雷らいが鳴り出しました。いや、雷ばかりではありません。それと一しょに瀑たきのような雨も、いきなりどうどうと降り出したのです。杜子春はこの天変の中なかに、恐れ気げもなく坐っていました。風の音、雨のしぶき、それから絶え間ない稲妻の光、――暫くはさすがの峨眉山も、覆くつがえるかと思う位でしたが、その內に耳をもつんざく程、大きな雷鳴が轟とどろいたと思うと、空に渦うず巻いた黒雲の中から、まっ赤な一本の火柱が、杜子春の頭へ落ちかかりました。

  杜子春は思わず耳を抑えて、一枚巖の上へひれ伏しました。が、すぐに眼を開いて見ると、空は以前の通り晴れ渡って、向うに聳そびえた山々の上にも、茶碗ほどの北斗の星が、やはりきらきら輝いています。して見れば今の大あらしも、あの虎や白蛇と同じように、鉄冠子の留守をつけこんだ、魔性の悪戯いたずらに違いありません。杜子春は漸ようやく安心して、額の冷汗ひやあせを拭ぬぐいながら、又巖の上に坐り直しました。

  が、そのため息がまだ消えない內に、今度は彼の坐っている前へ、金の鎧よろいを著下きくだした、身の丈たけ三丈もあろうという、厳おごそかな神將が現れました。神將は手に三叉みつまたの戟ほこを持っていましたが、いきなりその戟の切先きっさきを杜子春の胸むなもとへ向けながら、眼を嗔いからせて叱りつけるのを聞けば、

  「こら、その方は一體何物だ。この峨眉山という山は、天地開闢かいびゃくの昔から、おれが住居すまいをしている所だぞ。それも憚はばからずたった一人、ここへ足を踏み入れるとは、よもや唯の人間ではあるまい。さあ命が惜しかったら、一刻も早く返答しろ」と言うのです。

  しかし杜子春は老人の言葉通り、黙然もくねんと口を噤つぐんでいました。

  「返事をしないか。――しないな。好し。しなければ、しないで勝手にしろ。その代りおれの眷屬けんぞくたちが、その方をずたずたに斬きってしまうぞ」

  神將は戟を高く挙げて、向うの山の空を招きました。その途端に闇がさっと裂けると、驚いたことには無數の神兵が、雲の如く空に充満みちみちて、それが皆槍やりや刀をきらめかせながら、今にもここへ一なだれに攻め寄せようとしているのです。

  この景色を見た杜子春は、思わずあっと叫びそうにしましたが、すぐに又鉄冠子の言葉を思い出して、一生懸命に黙っていました。神將は彼が恐れないのを見ると、怒おこったの怒らないのではありません。

  「この剛情者め。どうしても返事をしなければ、約束通り命はとってやるぞ」

  神將はこう喚わめくが早いか、三叉の戟を閃ひらめかせて、一突きに杜子春を突き殺しました。そうして峨眉山もどよむ程、からからと高く笑いながら、どこともなく消えてしまいました。勿論この時はもう無數の神兵も、吹き渡る夜風の音と一しょに、夢のように消え失せた後だったのです。

  北斗の星は又寒そうに、一枚巖の上を照らし始めました。絶壁の松も前に変らず、こうこうと枝を鳴らせています。が、杜子春はとうに息が絶えて、仰向あおむけにそこへ倒れていました。

  五

  杜子春の體は巖の上へ、仰向けに倒れていましたが、杜子春の魂は、靜に體から抜け出して、地獄の底へ下りて行きました。

  この世と地獄との間には、闇穴道あんけつどうという道があって、そこは年中暗い空に、氷のような冷たい風がぴゅうぴゅう吹き荒すさんでいるのです。杜子春はその風に吹かれながら、暫くは唯木この葉のように、空を漂って行きましたが、やがて森羅殿しんらでんという額がくの懸かかった立派な御殿の前へ出ました。

  御殿の前にいた大勢の鬼は、杜子春の姿を見るや否や、すぐにそのまわりを取り捲まいて、階きざはしの前へ引き據えました。階の上には一人の王様が、まっ黒な袍きものに金の冠をかぶって、いかめしくあたりを睨んでいます。これは兼ねて噂うわさに聞いた、閻魔えんま大王に違いありません。杜子春はどうなることかと思いながら、恐る恐るそこへ跪ひざまずいていました。

  「こら、その方は何の為ために、峨眉山の上へ坐っていた?」

  閻魔大王の聲は雷らいのように、階の上から響きました。杜子春は早速その問に答えようとしましたが、ふと又思い出したのは、「決して口を利きくな」という鉄冠子の戒いましめの言葉です。そこで唯頭かしらを垂れたまま、唖おしのように黙っていました。すると閻魔大王は、持っていた鉄の笏しゃくを挙げて、顔中の鬚ひげを逆立てながら、

  「その方はここをどこだと思う? 速すみやかに返答をすれば好し、さもなければ時を移さず、地獄の呵責かしゃくに遇あわせてくれるぞ」と、威丈高いたけだかに罵ののしりました。

  が、杜子春は相変らず唇くちびる一つ動かしません。それを見た閻魔大王は、すぐに鬼どもの方を向いて、荒々しく何か言いつけると、鬼どもは一度に畏かしこまって、忽たちまち杜子春を引き立てながら、森羅殿の空へ舞い上りました。

  地獄には誰でも知っている通り、剣つるぎの山や血の池の外にも、焦熱地獄という焔ほのおの谷や極寒ごくかん地獄という氷の海が、真暗な空の下に並んでいます。鬼どもはそういう地獄の中へ、代る代る杜子春を拋ほうりこみました。ですから杜子春は無殘にも、剣に胸を貫かれるやら、焔に顔を焼かれるやら、舌を抜かれるやら、皮を剝はがれるやら、鉄の杵きねに撞つかれるやら、油の鍋なべに煮られるやら、毒蛇に脳味噌のうみそを吸われるやら、熊鷹くまたかに眼を食われるやら、――その苦しみを數え立てていては、到底際限がない位、あらゆる責苦せめくに遇あわされたのです。それでも杜子春は我慢強く、じっと歯を食いしばったまま、一言ひとことも口を利きませんでした。

  これにはさすがの鬼どもも、呆あきれ返ってしまったのでしょう。もう一度夜よるのような空を飛んで、森羅殿の前へ帰って來ると、さっきの通り杜子春を階きざはしの下に引き據えながら、御殿の上の閻魔大王に、

  「この罪人はどうしても、ものを言う気色けしきがございません」と、口を揃そろえて言上ごんじょうしました。

  閻魔大王は眉をひそめて、暫く思案に暮れていましたが、やがて何か思いついたと見えて、

  「この男の父母ちちははは、畜生道ちくしょうどうに落ちている筈だから、早速ここへ引き立てて來い」と、一匹の鬼に言いつけました。

  鬼は忽ち風に乗って、地獄の空へ舞い上りました。と思うと、又星が流れるように、二匹の獣けものを駆り立てながら、さっと森羅殿の前へ下りて來ました。その獣を見た杜子春は、驚いたの驚かないのではありません。なぜかといえばそれは二匹とも、形は見すぼらしい痩やせ馬でしたが、顔は夢にも忘れない、死んだ父母の通りでしたから。

  「こら、その方は何のために、峨眉山の上に坐っていたか、まっすぐに白狀しなければ、今度はその方の父母に痛い思いをさせてやるぞ」

  杜子春はこう嚇おどされても、やはり返答をしずにいました。

  「この不孝者めが。その方は父母が苦しんでも、その方さえ都合が好ければ、好いいと思っているのだな」

  閻魔大王は森羅殿も崩くずれる程、凄すさまじい聲で喚わめきました。

  「打て。鬼ども。その二匹の畜生を、肉も骨も打ち砕いてしまえ」

  鬼どもは一斉に「はっ」と答えながら、鉄の鞭むちをとって立ち上ると、四方八方から二匹の馬を、未練未釈みしゃくなく打ちのめしました。鞭はりゅうりゅうと風を切って、所嫌きらわず雨のように、馬の皮肉を打ち破るのです。馬は、――畜生になった父母は、苦しそうに身を悶もだえて、眼には血の涙を浮べたまま、見てもいられない程嘶いななき立てました。

  「どうだ。まだその方は白狀しないか」

  閻魔大王は鬼どもに、暫く鞭の手をやめさせて、もう一度杜子春の答を促しました。もうその時には二匹の馬も、肉は裂け骨は砕けて、息も絶え絶えに階きざはしの前へ、倒れ伏していたのです。

  杜子春は必死になって、鉄冠子の言葉を思い出しながら、緊かたく眼をつぶっていました。するとその時彼の耳には、殆ほとんど聲とはいえない位、かすかな聲が伝わって來ました。

  「心配をおしでない。私たちはどうなっても、お前さえ仕合せになれるのなら、それより結構なことはないのだからね。大王が何と仰おっしゃっても、言いたくないことは黙って御出おいで」

  それは確たしかに懐しい、母親の聲に違いありません。杜子春は思わず、眼をあきました。そうして馬の一匹が、力なく地上に倒れたまま、悲しそうに彼の顔へ、じっと眼をやっているのを見ました。母親はこんな苦しみの中にも、息子の心を思いやって、鬼どもの鞭に打たれたことを、怨うらむ気色けしきさえも見せないのです。大金持になれば御世辭を言い、貧乏人になれば口も利かない世間の人たちに比べると、何という有難い志でしょう。何という健気けなげな決心でしょう。杜子春は老人の戒めも忘れて、転まろぶようにその側へ走りよると、両手に半死の馬の頸くびを抱いて、はらはらと涙を落しながら、「お母っかさん」と一聲を叫びました。…………

  六

  その聲に気がついて見ると、杜子春はやはり夕日を浴びて、洛陽の西の門の下に、ぼんやり佇たたずんでいるのでした。霞んだ空、白い三日月、絶え間ない人や車の波、――すべてがまだ峨眉山へ、行かない前と同じことです。

  「どうだな。おれの弟子になったところが、とても仙人にはなれはすまい」

  片目眇すがめの老人は微笑を含みながら言いました。

  「なれません。なれませんが、しかし私わたしはなれなかったことも、反かえって嬉しい気がするのです」

  杜子春はまだ眼に涙を浮べたまま、思わず老人の手を握りました。

  「いくら仙人になれたところが、私はあの地獄の森羅殿の前に、鞭を受けている父母を見ては、黙っている訳には行きません」

  「もしお前が黙っていたら――」と鉄冠子は急に厳おごそかな顔になって、じっと杜子春を見つめました。

  「もしお前が黙っていたら、おれは即座にお前の命を絶ってしまおうと思っていたのだ。――お前はもう仙人になりたいという望のぞみも持っていまい。大金持になることは、元より愛想がつきた筈はずだ。ではお前はこれから後、何になったら好いいと思うな」

  「何になっても、人間らしい、正直な暮しをするつもりです」

  杜子春の聲には今までにない晴れ晴れした調子が罩こもっていました。

  「その言葉を忘れるなよ。ではおれは今日限り、二度とお前には遇あわないから」

  鉄冠子はこう言う內に、もう歩き出していましたが、急に又足を止めて、杜子春の方を振り返ると、

  「おお、幸さいわい、今思い出したが、おれは泰山たいざんの南の麓ふもとに一軒の家を持っている。その家を畑ごとお前にやるから、早速行って住まうが好い。今頃は丁度家のまわりに、桃の花が一面に咲いているだろう」と、さも愉快そうにつけ加えました。

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